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理事長あいさつ【バックナンバー1】

五十年前の青木達雄さんの想い

理事長 櫻井康宏(元福井大学名誉教授)

 「ハスの実の家」の五十周年を迎えて、①出版事業(受け継ぐべき文書集)、②地域発信事業(地域との新たなつながり)、③記念式典(歴史の継承と未来宣言)の三つの事業の準備が進んでいます。本紙発行の前に、②のメイン事業(記念祭)が既に実施されているはずです。①に関しては、創始者の青木達雄さん・ソノエさんご夫妻が遺された文書を中心に、③の未来宣言へと継承すべき文書の選定が進んでいます。創設直前の一九六五年に達雄さんが著した『順子覚え書き』『順子覚え書き・以後』をみると、重い障害を持って生まれた順子さんへの深い愛情とともに、当時の「社会のあり様」や「心のあり様」への鋭い怒りと「施設づくり(運動)」への並々ならぬ決意が読み取れます。以下、それぞれの代表的一文を原文のまま紹介させていただきます。

心のあり様

 「いけない」「だめ」「あっちいけ」「ばか、あほう」という言葉を聞かされ通しならば、顔からは笑いも消えるだろう。おど、おどもするだろう。素直な環境におかれれば精薄児の顔も明るい。ゆがんだ環境におかれれば、精薄児の顔もゆがむであろう。

 何といわれても、私達は私達の自主的で自由で本当の心と心を通い合った場所がほしいし、つくるべきだという信念に変りはない。

社会のあり様

 私はもどかしかった。(中略)なぜ精薄児は産まれるのか? 人口の三パーセント以上もいる精薄児の施設のことはどうなる? なぜ世間の人々は精薄児をうとみ、医者すらも白痴の子の脈をとるのをいやがるのだ。いったいだれが、何がそうさせているのか?

運動への想い

 この仕事は、一言でいえば、一碗のかゆをすすり合って頑張り抜くような熱情がなくては出来ない。かざむき次第ではひと口のせてもらおうかという具合ではまずい。役人根性、商人根性、慈善家気質、すべていけない。策のない策とでもいうか、身体中でぶつかるより手はないのだ。(中略)情熱というか、抵抗というか、深い愛情というのか、ともかくこの子達のために楯になる気構えになるとでもいうのだろうか。

そして今

 この『覚え書き』から五十年が経ちましたが、「ハスの実の家」が法人化した丁度その頃から、社会全体が「目標喪失」「先行き不透明」と叫ばれ、新自由主義が幅を利かせて様々な「貧困」と「格差」が顕在化しています。そのような中にあって「ハスの実の家」は、事業規模の拡大をみたものの経営・運営の両面で多くの困難な課題を抱えているのも事実です。理事会として本気でその克服に取り組む覚悟ですが、達雄さんの初心を思い起こしつつ、皆さんと「心」を一つにすることの大切さを改めてかみ締めています。
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