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理事長あいさつ【バックナンバー3】

互いにリスペクトし合える関係を! ―平昌オリンピックを通して考えたこと

理事長 櫻井康宏(元福井大学名誉教授)

 この三月で七一歳となりました。この間、福井大学定年後も地域のいろいろな活動に関わってきましたが、四月からは「ハスの実一本!」とし、職員の皆さんと一緒に「実践カルテ(仲間の発達カルテ+職員の支援カルテ+法人の財政カルテ)」の整備に本格的に取り組み、合わせて、家族会・後援会の皆さんとも一緒に「地域づくり」に取り組んでいきたいと考えています。また、理事長個人としても後援会・賛助会の会員拡大に努めていきたいと思っています。よろしくお願い申し上げます。

 この冬には、「ほほえみ外交」に始まり「メダルラッシュ」に終わった平昌オリンピックがあり、多くの場面で感動しながらも、いろいろ考えさせられました。まずは「ほほえみ外交」のことです。一言ではいえない難しい問題で、「なぜ一つの民族が分断されることになったのか?」という背景の理解なくして容易には発言できない問題だと感じています。近代以降(明治維新以降)、欧米列強がアジアにどのように進出しようとしたか、それに日本がどのように絡んだか、どのような経緯の末に終戦(敗戦)を迎えたか、どのような力関係で朝鮮半島が分断され、なぜ朝鮮戦争が起こり、どのようにして現在の「休戦」に至っているのか、という一連の流れを総合的に理解することによってはじめて、「日本がどうすべきか?」「私たちがどうすべきか?」という道筋も見えてくるのではないかと思っています。定年の頃から、私が勝手に唱えているテーマが「脱西欧・脱アメリカ↓北欧に学びアジアを見直す」ということなのですが、途中を省いて結論を急げば、「南北朝鮮の障害者問題に取り組む人々との交流を通して互いを理解しリスペクトし合える関係をつくる」こと、ここに私たちが追求できるテーマがあるのではないかと考えています。

 続いて「メダルラッシュ」のことです。「メダルラッシュ」そのものは喜ばしいことですし、私も興奮しながらテレビにかじりついていました。しかし、その後の報道や報奨金の扱いがあまりにメダル取得者に偏っているように思いました。私自身は、どちらかといえば「勝負よりも記録」という考えであり、世界新・日本新もさることながら「自己新」を出すこと(自らの力を最大限に引き出してさらなる可能性を示すこと)を大いに評価したいと思っています。端的に言えば、平凡な記録でメダルが取れたこと(時の運)よりも、メダルは逃したけれど自己新をマークしたことの方を評価したいということです。このことは、「メダル取得者に報奨金」という発想以上に「いろいろな発達段階にある選手それぞれが『自己記録(発達の最近接領域)』に挑戦できるような環境整備や条件整備をする」という発想につながり、このことが結果的に日本記録や世界記録やメダルにつながるものと理解しています。最近の選手たちが「楽しみたい」と語るのも、「(メダルの重圧から別れて)自分だけに向き合いたい」という気持ちの現れのように理解できますし、選手同士は年齢や国籍の違いを超えて、そういう「向き合う姿勢」を互いにリスペクトし合っているようにも理解できました。

 リスペクトといえば、小平奈緒選手と李相花選手がリンクで見せてくれた姿が評判となりました。その小平選手は、信州大学スケート部の「技術討論会」で発表することを十年以上続けており、滑走時に意識したことを毎日メモに書き記した『技術カルテ』を基に、配布資料と映像でチームメイトに説明するとのことです。そして「自分の頭の中を整理しながらスケート技術を言語化し、氷と対話しながら技術的なものを積み上げてこられた」と話しています。この「スケート技術」を「支援技術」に、「氷」を「仲間」に読み替えることによって、「支援技術を言語化し、仲間と対話しながら技術的なものを積み上げて『支援カルテ』を作成する」という地道なプロセスの重要性を改めて確認しておきたいと思います。
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